このページの先頭です
  1. HOME
  2. 技術・実績
  3. 耐震・防災・維持管理
  4. 国道169号伯母谷ループ橋
ここから本文です

国道169号伯母谷ループ橋

発注者 奈良県吉野土木事務所

1.はじめに

 この試験は、伯母谷ループ橋が供用開始される前に、橋脚等の固有振動数の初期値を測定するために実施した。将来における経年劣化の進行状況を知るためにも、また、地震等の異常事態の発生時にもすばやく基礎の健全度を確認するためにも、固有振動数の初期値を測定しておくことは重要なことである。

2.橋梁の緒元

 上部工形式は、PC4径間連続ラーメン箱桁橋橋長312m(R=160mの急曲線、地形も45度の急峻)支間41.25m+90m+100m+79.25mである。
 橋脚天端までの地上高さが28.5~64mのRC中空式高橋脚で、基礎は、長さ25~27mの大口径深礎杭(Φ10~13m)である。

3.衝撃振動試験の概要

 衝撃振動試験とは、橋脚等の構造物が持つ固有振動数を目安として健全度評価を行う原位置試験である。
 これまで、鉄道橋で列車間合いに衝撃を与えて実施されてきた。
 固有振動数は、下部工自体の死荷重、上部工からの上載荷重、構造物の強度、地盤支持力により決定されるものであり、固有振動数が基礎構造物の健全性を評価する上で重要な指標になり得る。
 試験方法等は、以下の手順に分けられ下記の原位置試験は平成14年9月19日に実施した。
  • P1橋脚は、検査路を利用して小型センサーを橋脚天端、桁内部(P1橋脚より離れ、A1側19.7m・P2側9.3m)と橋脚下部に設置した。
    P3橋脚は、連続ラーメン箱桁橋と一体構造のため、桁内部(P3橋脚より12.65m離れのP2側・A2側)と桁内橋脚上部に小型センサーを設置した。橋脚下部には、時間の都合で設置できなかった。
    P2橋脚は、時間的に余裕がなく今回は、同試験を実施できなかった。
  • 橋検車ⅡT型(橋面より5.9m下がりまで可、積載荷重200kg又は2人)から重錘(60kg)を吊り下げ、橋脚を橋軸直角方向に重錘をロープで引っ張り10回程度打撃した。なお、分析に必要な重錘の加速度も測定した。
  • 各測点における応答振動波形をIMPACTⅠ及びⅡに収録した。
  • フーリエ解析を行い、フーリエスペクトル振幅の卓越からP1橋脚の固有振動数を求めた。なお、P3橋脚については、今回の試験では固有振動数を求めることができなかった。
  • 上空から見た伯母谷ループ橋

    [上空から見た伯母谷ループ橋]

  • 衝撃振動試験①

    [衝撃振動試験①]

  • 衝撃振動試験②

    [衝撃振動試験②]

  • 機材設置状況(上)/計測状況(下)

    [機材設置状況(上)/計測状況(下)]

P1橋脚の衝撃振動試験結果(計測器:IMPACTⅠ)

  センサー設置位置 固有振動数(Hz)
第1回目
(5回打撃)
橋脚天端
P1U-1
16.5
第2回目
(10回打撃)
橋脚下部
P1D-1
16.5
計測器を桁内にセット

[計測器を桁内にセット]

  • P1U_1<橋脚天端>
    振動数:16.5 Hz/スペクトル振幅:6.19E-02

    P1橋脚の衝撃振動試験結果(計測器:IMPACTⅠ)①

    [P1橋脚の衝撃振動試験結果(計測器:IMPACTⅠ)①]

  • P1D_1<橋脚下部>
    振動数:16.5 Hz/スペクトル振幅:4.08E-03

    P1橋脚の衝撃振動試験結果(計測器:IMPACTⅠ)②

    [P1橋脚の衝撃振動試験結果(計測器:IMPACTⅠ)②]

  • 衝撃振動試験の成果

    [衝撃振動試験の成果]

データの見方

 P1橋脚のフーリエスペクトル波形を見ると、いくつかのピークが見られる。橋脚の固有振動数はこれらのピークのいずれかである。橋脚にセンサーを取付けても、橋脚に載っている桁や付随している様々なものの固有振動数も検出してしまうので、それらを排除しなければ橋脚の固有振動数を確定できない。桁のフーリエスペクトルを参照すると、橋脚に現れている11HZ以下のピークは、桁の固有振動によるものと考えられる。
 16.5HZ付近にあるピークでの位相差グラフを見ると上部、下部ともにこの振動数のところで0(rad)を左下から右上方向に横切っており、これがP1橋脚の固有振動数であると考えて差し支えないと思われる。

4.今回の成果

今回の衝撃振動試験により、次のような成果が得られた。
  • P1橋脚のように背が高く、上部工反力の大きな橋脚においても、フーリェスペクトル(速度波形)より固有振動数がIMPACTⅠ・Ⅱの両計測器とも16.5Hzの値が測定でき、この実測値を基に下図のP1橋脚についてのみモデル化し、固有値解析をおこなった。 シミュレート結果によると、躯体の鉛直剛性は、設計値の1.8倍となっている。また、地盤の水平バネについては、設計値の3.0倍となっており、安全率等を考慮すると健全な状況であると考えられる。
  • P3橋脚は4径間連続ラーメン箱型橋と一体となった橋脚である。今回は時間及び高所作業の関係で60kg重錘の打撃位置1箇所しか行えず、また、センサーの取り付けられなかったところもあるが、1.0Hz付近に大きなピークが見られるため、固有振動数と判断できる。

5.今後の展開とまとめ

この衝撃振動試験により、次のようなことが可能になります。
  • 将来、地震等の異常事態の発生時に、目視点検で発見できない地盤や躯体の変状が、この簡易な衝撃振動試験により、再度固有振動数を計測し、今回の初期値並びに同速度波形と比較することで、現場での正確な健全度判定ができるとともに、今後のデータによる管理が容易にできる。
    例:躯体にクラックが入ったり、地盤が緩むと固有振動数は低下し、低下の度合いによっては
      詳細点検が必要になり、場合によっては、補強工が必要となる。
  • 河川内橋梁では、大量降雨後の洗掘に伴って基礎地盤が変化しているかどうかを、潜水調査や船などによる洗掘量調査などを行うことなく、固有振動数の比較で判断することができる。
参 考までに、河川内の鉄道橋では、橋脚の洗掘を考え数年に1回程度、橋脚頭部のみの簡易な同試験を実施し効率的に点検をおこなっている。特に、大雨の後等において危険と思われる橋脚については、その都度、同試験により点検しているのが現状である。
 もともとこの試験方法は、鉄道総合研究所で鉄道橋脚及び高架橋の維持管理のために開発され、JRをはじめ民鉄各社でも実施され効果をあげている。特に、阪神淡路大震災の際の災害復旧時には、損傷状態の評価に利用され、大きな効果をあげた。
 
 今後、道路橋においても、大量出水時や地震時(将来30年間の間に40%の確立で起こると予言されている南海地震時)など、多くの安全性を短時間で確認する必要がある場合など、この試験結果が大いに役立つと思われる。
 
 なお、本報告は「一般国道169号線伯母谷ループ橋(大曲2号橋)における橋脚衝撃振動試験 結果報告(平成15年4月)」から抜粋して記述したものである。 。

一覧へもどる

ページの先頭に戻る