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山岳トンネル地質調査への
新しい電気探査法の適用とその有用性

技術部

大阪大学工学部
松井 保
近畿日本鉄道㈱  建設改良局
河合 綱昌
中屋 賀雄
全日本コンサルタント ㈱
山本 茂章
吉田 耕作
応用地質 ㈱
田中 達吉

1.はじめに

 山岳トンネル地質の事前調査としては、従来、地表地質踏査、弾性波探査およびボーリング調査法等の手法が広く用いられてきたが、地下構造(地質)、特に断層や破砕帯の方向性および分布状況や地下水状況等の適確な把握に不明瞭な点が残されていることが指摘されている。そこで、この弱点を補うために、従来の調査法に加え、近年開発された新しい電気探査法(比抵抗映像法)の適用を試みた。
 筆者等は、この調査手法を生駒山系南端部に計画された鉄道トンネル調査に適用し、得られた比抵抗分布と従来の調査手法の結果との適合性を検討するとともに、不明瞭な断層・破砕帯等の方向性および地下水や風化帯の分布状況をより詳細に把握することを試みた。

2.地質調査概要および方針

 山岳トンネルの地質調査項目としては、一般に、トンネル標準示方書(山岳編、土木学会) 1) (表-1参照) に従って、そのトンネルの状況に合せて、項目の選択が行われるのが普通である。
 当該トンネル地質調査においても、上記示方書に従い、次の項目を実施することを基本とした。
 ①地表地質踏査
 ②弾性波探査
 ③ボーリング調査(約15年前に実施した柱状図が有り、今回は追加ボーリングを実施した)
 ④標準貫入試験
 ⑤孔内水平載荷試験
 ⑥一軸圧縮強度試験
 ⑦孔内湧水圧試験
  しかしながら、当該トンネルは、総体的に土被りが浅く地質変化が激しいと想定されるなかで、トンネル掘削施工にあたって、近接施設および構造物(病院、砂防ダム、現在線上部の急崖および現在線トンネル、国道)への配慮から、発破に伴う騒音、振動の低減を図る必要があり、トンネル延長(715m)の約50% は機械掘削を行うこととしていた。このため、とりわけ岩質の硬軟、また風化の程度および節理の発達状況、ならびに各々の岩質分布状況については可能なかぎり把握する必要があった。

 このように、当該トンネルは、掘削施工上の特殊事情もあって、設計・施工計画策定にあたっては、できるだけ多くの地質情報を必要とした。このため、従来の地質調査項目に加えて比抵抗映像法による電気探査も実施することとした。

3.適用トンネル付近の地質概要

 トンネルルート沿いの地質は、第三紀の中新世~鮮新世において二上山の火山活動時期に堆積した二上層群に属する原川累層と定ヶ城累層が分布している。
 原川累層としては、模式地を屯鶴峯北側の小沢から香芝町田尻を経て、柏原市田辺の原川沿いとする田尻部層が、定ヶ城累層としては、羽曳野市寺山・鉢伏山に分布する寺山火山岩と呼ばれる地層が分布する(図-1参照)。
 田尻部層は、おもに礫岩からなるが、泥岩・砂岩・泥流堆積物をともなう。本層は、全体的に風化が進んでいて脆弱な岩質であり、堆積後隆起してSE方向の傾斜を示す。
 寺山火山岩は、粒径等に若干の変化が見られる程度で、全体としてほぼ同様の黒雲母デイサイト溶岩で構成され、トンネル計画ルートと直交する方向の破砕帯・風化帯が幾条か存在する。

表-1 調査項目と調査法[表-1 調査項目と調査法]

図-1 二山層群地質図[図-1 二山層群地質図]

4.新しい電気探査法の概要

①測定方法
 測定方法は、図-2に示すように、測線上に電極を一定間隔で設置し、これらの電極をテイクアウトケーブルを用いて、測定本部のコネクターボックスに接続する。また、これとは別に、測線から十分離れた地点に遠電極を設置する。電極は2極法配置とし、電極間隔は5mとした。
 電位の測定は、まず電流電極(C)を固定し、一定間隔毎の電位変化を電位電極(P1P2・・Pn)で測定する。こうして、ある展開の測定が終了するとコネクターボックス上で電流電極を移動し、同様の繰作を繰り返す。

図-2 測定概略図[図-2 測定概略図]

 ②解析方法
 解析は、アルファーセンター法を用いた二次元自動解析法 2) によって行った。
 自動解析では、まず見掛比抵抗擬似断面図から地下構造の初期モデルを作成する。次に、このモデル構造から理論的に計算される見掛比抵抗値が測定値に最も近くなるように、地下の比抵抗分布を最小二乗法により決定する。

5.各調査結果の比較

  新しい電気探査法の山岳トンネルにおける適用性を検討するために、次頁に示すように、トンネル計画ルート上の、「弾性波速度縦断図(図-3)」、「比抵抗 縦断図(図-4)」及びこれらに地表地質踏査結果、ボーリング調査結果も加味しまとめた「トンネル地質総合縦断図(図-5)」を描き、比較検討することに した。その結果、主な結論は以下のようにまとめられる。

図-3 弾性波速度縦断図[図-3 弾性波速度縦断図]

図-4 比抵抗縦断[図-4 比抵抗縦断図]

図-5 トンネル地質総合縦断図[図-5 トンネル地質総合縦断図]

①弾性波速度Ⅴ=2km/s以下と比抵抗値
60Ω-m以下の分布は、ほぽ調和している。これは、表土、崖錐堆積物、谷底堆積物および岩盤の強風化帯から風化帯に相当する。

②寺山火山岩内の断層・破砕帯は、弾性波探査では低速度帯がやや不鮮明であるが、新しい電気探査では鮮明にあらわれている。これは、この断層・破砕帯が割目が多いが密着し、かつ粘性が大きいことに起因していると思われる。

③弾性波探査の短所である低速度帯 (断層・破砕帝)等の分布および方向性の把握については、新しい電気調査ではかなり把握できる。すなわち、今回の結果では、図-6に例示されるように、弾 性波探査では低速度帯の上端のみしか確認できない。一方、新しい電気探査では低比抵抗帯の方向性がトンネル位置の深部まで明瞭に現われ、地表踏査による断 層・破砕帯の方向性ともほぼ適合する関係にあることが確認された。

④弾性波速度縦断図では、田尻部層と寺山火山岩の地層境界が確認できないが、図-7に示すように、比抵抗縦断図では確認できた。尚、この境界は、水平ボーリングの結果と合致していることが確認された。

図-3 弾性波速度縦断図[図-3 弾性波速度縦断図]

図-4 比抵抗縦断[図-4 比抵抗縦断図]

⑤岩盤区分(硬軟)については、現在のところ、新しい電気探査の比抵抗値との対応関係が、弾性波速度の場合のように直接的には得られていない。しかし、露岩およぴボーリングコアーの岩級と 対応し、比抵抗値を計測することによりほぼ正確に把握できた。例えば、今回の寺山火山岩のデイサイトでは、表-2に示すような対応関係が得られた。

表-2 非抵抗値-岩級区分(地山分類)関係表[表-2 非抵抗値-岩級区分(地山分類)関係表]

⑥比抵抗縦断図では、今回の場合、次のような点を判断基準とすれば、地下水の帯水状況をある程度推定できる。すなわち、比抵抗値の地表部から深部にかけての最小比抵抗値部付近以深に帯水層があると推定される。

⑦岩級区分CL~CM級以上、弾性波速度Ⅴ=2krn/s以上の新鮮岩以深においては、弾性波速度縦断図と比ペ比抵抗縦断図の方がよりボーリング調査の結果と傾向が適合していることが確認された。

6.新しい電気探査法のトンネル地質調査への適用の有用性

  当該トンネル地質の事前調査として採用実施した新しい電気探査法の結果によるかぎりでは、前項で述べたように弾性波探査結果、ボーリング調査結果ともよく 適合し、かつ前者では不明瞭な部分をより明確に探査できることが確認された。さらに、調査実施にあたっての所要日数・手間等も多くを必要とせず簡便である こと等を考慮すると、トンネル地質調査の一手法として非常に効果的であると考えられる。ただし、土被りの大きいトンネルの場合には、探査可能深度および精 度等に問題が残されている。以下に、本手法の優れている点あるいは事前調査として本手法を適用すれば有用であると考えられる点を指摘しておく。

①本電気探査は、弾性波探査と比較して、下記のような長所を有しているので、弾性波探査を含む他調査結果等も勘案すれば、山岳トンネルの地質把握の有力な手法となり得る。

・弾性波探査では一定深度以下については、地層あるいは岩盤の硬軟区分の境界は不明確であるが、本電気探査ではこれ等が表現されるとともに、地層の傾斜・方向性についてもある程度解明できる。

・弾性波探査は、地質の硬度が上層から下層へ順次増加して行く場合には適用可能であるが、下層に軟らかい層が存在する場合、あるいは沢部等地形・地質の変化が急激かつ細かく変化する場合に は、明確な結果が期待できない。本電気探査ではこれ等のケースについてもある程度の解明が可能である。

・弾性波探査では不可能な地下水の状況についても、本電気探査によってその概要を把握できる。

②上記の有用性を勘案して、今後のトンネル地質調査への連用という観点から考察すれば、下記の点が指摘できる。

・弾性波探査・ボーリング調査・本電気探査と併用してトンネル地質調査を行う場合、これまで述べてきたとおりであるが、さらに具体的に考えてみると、諸調査項目の実施順序について、本手法が短期日に簡便に実施可能であることから、まず、地表踏査,電気探査および弾性波探査を先行実施し、地質縦断概要図を作成する。つぎに、この結果にもとづいて、調査必要ヶ所をしぼり込み、ボーリング調査、力学特性値試験等必要な調査を行う方法が考えられる。このことによって、全体把握および問題点となる個所が適確に把握でき効率的な調査を行うことができよう。

・トンネル上部に重要構造物があり、 部の地質を詳細に知りたい場合、あるいは地質および地下水の状況が複雑な沢部の地質を把握したい場合等、トンネル設計・施工計画策定にあたって重点的な地 質情報が求められる場合、本手法および他の方法を組合せ実施することによって、また場合によってはボーリング孔を利用するジオトモグラフイーを用いることによって、正確で明瞭な地質情報を得ることができる。

7.おわりに

 本論文では、新しい電気探査法を山岳トンネル地質調査へ適用した結果を述ペるとともに、その有用性について検討した。その結果、従来、事前調査として行われてきた地表地質踏査と弾性波探査を中心とする方法に比し、本電気探査を併用する方法によって、はるかに有用な地盤情報が得られることが確認できた。
 しかし、以上の確認は、主としてボーリング調査結果との対応および他の調査結果との適合性にもとづいて行われたものである。したがって、本電気探査の適用 性をさらに詳細に確認することはトンネル掘削後に行いたいと考えている。また、さらに長期的な展望としては、数多くのトンネル掘削の実績データにもとづいて、岩種、岩盤状況や地下水状況と比抵抗値との関係をより一般的にかつ定量的に把握したいと考えている。

参考文献

1)土木学会:トンネル標準示方書(山岳編)・同解説
2)島裕雅・坂山利彦:電気探査におけるアルファーセンター法を用いた二次元自動解析の試み
  昭和60年度物理探査学会秋季講演会,1985

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